2016年9月29日木曜日

みりんのふるさと

碧南市の藤井達吉現代美術館に河鍋暁斎展を見に行った。
離れた臨時駐車場に車を停め、美術館への道を歩いていると
どこからか米が炊けたときのような、食欲をそそる香りが漂う。
香りの元は美術館前の道路を挟んだ向かい側、
歴史と風格を感じる白壁に掲げられた「九重味淋」の看板。
もち米を蒸すみりんの蔵元からの香りだった。

香りに誘われるままに直売所へ吸い寄せられると、
そこは昔ながらの事務所の一角に設けられた実直な売店、の真ん中に接客係のPepper。
しきりに会話をせがんでくるPepper相手に軽快トークを見せないと
やっぱり売ってくれないのかな、と身構えてたら
ほどなく女性社員が応対に出てきてくれて、心の底から安心する。
看板商品である本みりん九重櫻と原料にみりん粕を用いたラスクを購入した。

実は先日、とある酒屋の前を通ったら
袋詰めのみりん粕が売られてたのを見かけて
そのうち食べるつもりでなんとなく購入したり、
飲用に向くみりんのレビュー同人誌を書店で見かけて衝動買いしたりと
なぜかみりんづいてる。
その本によれば私の住む地方の近隣は
江戸時代からの歴史あるみりんの産地らしくて
今でもみりんの名品を作る蔵元が多いとのこと。
和風料理ぐらいでしか味わう機会がなかったみりんだが
良い機会なのでいろいろ試してみると世界が広がるかも。
下戸だから舐める程度にしか味わえないんだけど。


2016年9月21日水曜日

キクをミル / 映画「聲の形」

映画「聲の形」を見た。
アニメけいおんシリーズ・たまこまーけっと・
たまこラブストーリーを手掛けた山田尚子監督の最新作で、
原作も週刊少年マガジン連載時に話題となった作品である。
映画化のニュースとスタッフ発表以来、封切りを心待ちにしていた。
しかし上映開始と仕事のスケジュールがうまく合わず、
間隙を縫って初日土曜のレイトショーに駆けつけたが、
初見では多数のエピソードを整理しきれずに表面的な感想ばかり生まれる始末。
それと同時に再び見たいという衝動と、
モヤモヤした思いを自分なりに消化したいと直感したので、
日を改めて再鑑賞する機会を伺っていた。
以下、映画本編を見た後の感想置き場につき
未見の方はネタバレ注意。



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2016年9月14日水曜日

名古屋ボストン美術館「俺たちの国芳、わたしの国貞」

名古屋ボストン美術館「俺たちの国芳、わたしの国貞」を観た。
春のbunkamuraザ・ミュージアム、夏の神戸市立博物館を経て、ようやく名古屋へ巡回。
初週の平日とは思えぬほどの入り具合、しかし大混雑とまでは行かず
じっくり見たい作品も少し待てば独り占めできるぐらいで、
ちょうど良い塩梅で楽しんでこれた。


今回の展覧会で目を惹かれたのは
「三代目尾上菊五郎の名古屋山三、六代目岩井半四郎、五代目市川海老蔵の不破伴左衛門」
「二代目岩井粂三郎の揚巻、七代目市川團十郎の助六、三代目尾上菊五郎の新兵衛」だ。

二代目岩井粂三郎の揚巻、七代目市川團十郎の助六、三代目尾上菊五郎の新兵衛


歌舞伎が大好きな毛利の若殿様が国芳や国貞に摺らせた特注品で、
版画とは思えぬほどの繊細な彫り線や、金銀特色も加わった上品な色使い、
さらには「空摺り」と呼ばれるエンボス加工まで施されており、
町人向けに量産された錦絵とは一線を画した技術がつぎ込まれてて、
それはとても見応えあった。

国芳の細部まで緻密に描き込まれた世界観とマンガチックに大胆な構図、
国貞の本流を押さえながらも女性の生活を機微に描いた作品、
それぞれを比較しながらも、どれも見ていて飽きない作品ばかりで
保存状態も良い物が並んでおり、とても楽しいひとときであった。


ところで、当時人気だったのはやはり歌舞伎だったようで
歌舞伎役者のブロマイド的な作品がいくつも並んでおり、
歌舞伎の知識も嗜んでいると浮世絵鑑賞は捗りそうだ、と見ながら感じてた。
例えば市川團十郎や尾上菊五郎といった留め名の大名跡から、
成田屋や音羽屋などの屋号、それぞれの得意とした演目…。
たまたま先日読んだ「歌舞伎一年生」が初心者向けに解説されてて
そこらの知識を一夜漬けできたのが今回とても役立った。
当時の庶民的な風俗や世相をダイレクトに取り込んだ消費アートだから
その手の知識も詳しくなれば、より楽しめる気がする。
そんな点でも勉強になった日だった。

2016年9月10日土曜日

葡萄の季節

ここ数年、夏の味覚の楽しみにぶどうが加わった。

子供の頃はどちらかと言えばそんなにぶどうが好きじゃなかった。
食卓に上がるのはデラウェアか巨峰のどちらかで、
食べやすいけど酸っぱさが先に目立って粒の数が多くて食べ飽きるデラと、
甘い大きいと親が有難がってた巨峰の方は
皮は剥きにくいは種はデカいは面倒だはで、好んで食べた記憶がない。
生活圏にコストコができたころに
輸入品のシードレスグレープを試しに買ったが、
確かに食べやすいけども甘さは薄いし割高感はあるし、
結局、繰り返し買うものにはならなかった。


転機が訪れたのは数年前。妻がある日、
「この近くの町はぶどうの名産地らしい。
 色んな種類のぶどうを育ててるんだって。食べたい。」
…と、つぶやいた。
ぶどうなんて巨峰かデラウェアかマスカットぐらいじゃないの?と
訝しみつつ調べてみたら、自分が知らないだけで、
世の中にはお米のそれ並みの品種が出回っており、
中にはゴルビーってソ連の書記長みたいなやつもいた。
(とか思ってたらホントにそれが由来だった)


そんな会話をしたのが10月ぐらい。
そのときは知らなかったがこの辺りのぶどうの旬は8月。
ということでその年はお預け。
翌年の夏がやってきた頃、満を持して美味しいぶどうを探し始めた。

やはり売れ筋なのか主流なのか、巨峰をメインに育ててるぶどう園が多く、
でもどうせならなるべく多種多様な品種を中心にやってるところに行きたいな、
だけどそんな都合の良いところあるのかな、と思いながら農道を車で走ってたら、
「ピオーネ」「ゴルビー」などと書かれたのぼりを発見。
誘われるがままに行ったら、栽培品種が十数種類、
さらに看板犬のワイマラナーとトイプードルが激烈可愛いという、
我々にとってのエルドラドのようなぶどう園に巡りあった。

よく冷えた試食用のぶどうは甘く美味しく、
種のないもの、皮ごと食べられるもの、などなど多種多様で、
いくつかの品種を見繕って買ったが、
どれもこれも眼から鱗が落ちる勢いで大変美味しかった。
特に我が家で人気が高かったのはシャインマスカットで
甘い・香りが良い・実がしっかりしてる・粒が大きい・皮ごと食べられる、と
「ぶどうってこんなに美味かったのか…」と思い知らされた。
これはリピートせねばなるまい、と改めて買いに行ったら、
シャインマスカットは比較的、早生の品種のようで既に取り扱い終了、
また翌年まで持ち越しで肩を落としつつ他の品種を買って帰ったこともあった。


結局、その年の夏は事あるごとに通い、様々な品種を食べ比べた。
いろいろな種類を食べることで食べ慣れた巨峰の美味しさを改めて認識したり、
流通ルートを経てスーパーに並ぶものより朝採れ新鮮な方が明らかに甘いこと、
食べ比べて自分たちの好みの食感や味の指標ができたのは貴重な経験だった。

旬が過ぎ去った秋冬頃からは翌年のためのぶどう貯金まで始める始末。
そして今年もその貯金を使い、ぶどうをたくさん食べられた。
シーズン初っ端に当たった大粒のシャインマスカットがマストだったなあ。


今年の旬も終わってしまったけど、また来年が楽しみ。お金貯めよう。

2016年9月7日水曜日

夏の映画の雑感

今年は映画館に足を運ぶ機会が多い夏だった。


7月末の公開直後からただならぬ勢いでTwitterで話題に上がった「シン・ゴジラ」。
ネット依存症気味である我が家でも話題になり、
見に行くしかあるまいと近所のシネコンへと向かってIMAXで鑑賞、
見終わった直後に家計からの支出でサントラ購入するほど衝撃を受けた。
その後ほどなく「社会現象」と呼ぶのにふさわしいブームとなり、
一時の喧騒からはようやく落ち着いてきたものの、
その名を目にしない日はいまだに無い。

特撮映画としても政治劇としても邦画としても、
なにより娯楽映画として心底楽しめた映画だった。
鳥肌が立つような映画をスクリーンで見れて良かった。


シン・ゴジラの爆発的ブームが一段落した頃に
入れ違いでTLに登りはじめた「君の名は。」。
タイトルが繰り返し流れてくるようになってから気になり始めたものの、
この映画の事前情報どころか、新海誠監督作品すらも一度も見たことはない。
幾つかの評判に主題歌を歌うバンドとキャストを当てている俳優の話題、
それと景気の良い興行収入のニュースが届くばかりだった。

逆にここまで来たなら、どんな内容なのかなにも知らぬまま見ようかの、と
気負ったまま乗り込んだ映画館。
そこは噂どおりリア充とおよそアニメを見に来ないような若者、
それと熟年夫婦で9割方埋まっていた。平日の真昼間なのに。

いろいろ気になるところや細かく突っ込みたいところも目立つが、
綺麗にまとまった佳作だった。
誰かがどこかで「シン・ゴジラは一刻も早く観にいくべき作品だが、
君の名は。は若いうちに観に行かなければならない作品」と言ってたが
その言葉がすんなり飲み込めるような、青春現代ファンタジーだ。
突っ込みたいところや感想が溢れでてきて
ネタバレ覚悟で誰かと熱く語りたくて仕方ないけど、
そんな野暮よりも話が動き出してからの展開に身を任せて
素直に楽しむのが最善手かもしれない。

しかし、この作品がスマッシュヒットするならば、
細田時かけやたまこラブストーリーももっと高く評価されても、とも思うが、
先達が築いた数々の青春アニメ作品を経て、また数年前と比べても
アニメ・オタク文化が根強く浸透した時代になったからこそ、
ようやく世間とハイパーリンクして花開いたのが「君の名は。」なのかも、と
考えると、それはそれでちょっとようやく気は熟したかと感慨深い。

先日、テレビ録画サーバーのHDDを整理してたら
数年前の正月に放送した新海誠監督作品一挙放送の録画が出てきた。
いつか見ようと思ったまますっかり忘れてたけど、これもそろそろ見頃かな。


この夏が来る前から最も期待してた映画は
ゴジラでも君の名はでもなく、「不思議惑星キン・ザ・ザ」のリバイバル上映だった。

平沢進リスナーなら一度は耳にする旧ソ連グルジア発のSF映画。
日本では昭和の末期にVHSで流通、アンダーグラウンドなカルト人気を得て、
その人気に押されたのか、21世紀を迎えた頃に
ニュープリント・新訳字幕でミニシアター上映とDVDリリース。
…されたまでは良かったが、ほどなくDVDも廃盤。
再び知る人ぞ知るカルト映画になってしまった。
一時期はAmazonのマケプレでもDVDが数万円とか値段がついてたっけ。

それが今年、デジタル・リマスター版が再びミニシアター上映されることとなり
私が暮らす地方にもやってくるというニュースが飛び込んできた。
封切日に行きたかったが仕事スケジュールとうまく噛み合わず、
上映終了間近の平日になってようやく見に行けた。

DVDも持ってはいるが、手元にあるとなかなか見返さないもので
通してみたのは10年ぶりかもっと前かもしれない。
大まかなあらすじは覚えていても中盤以降のエピソードはかなり忘れていた。
前に見た時は全体的に冗長なイメージだったが、
久しぶりにちゃんと見て、覚えてたよりも起伏ある筋書きで
旧ソ連体制の寓意的描写をさておいても
ディストピアSFとしてしっかりと面白い作品だった、と感じたのは収穫だった。
あらかじめあらすじが頭に入ってたから、訳の分からない情報が整理されて
昔に比べて見やすかったというのも、あるかもしれない。

パンフレットの解説が2001年版からの転載ばかりなのがやや残念。
もうちょっと気合を入れて作って欲しかった。



この後も気になる映画がいくつかある。
なんといっても見逃せないのが「聲の形」。
待ちに待ってた山田尚子監督の最新作。
たまこラブストーリーを見た時のショックは忘れられない。
話題になると良いなあ。

もうひとつ。映画館のチラシで初めて知った「築地ワンダーランド」。
閉場目前の築地市場をテーマにしたドキュメンタリー映画とのことで、
予告編からして美味しそう。これは見に行ければ行きたい。
映画の他にも見に行きたい特別展の開催がいくつも待ってるし、
見逃せないライブも迫ってて、この秋も忙しくなりそう。