2018年12月17日月曜日

しもやけとあかぎれ ~ Lyrical king of the Northward

記録的に暑かった夏もいつか過ぎ、
落ち葉を飛ばす風が吹き始めた。
この季節の狭間には、ある人の手のひらを思い出す。


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1970年代から2010年代までの三十有余年に渡って
日本のロックシーンに爪痕を残し、
「日本最古のロックバンド」とも呼ばれた、ムーンライダーズ。


その活動の無期限停止を宣告し、
余韻を惜しむかのように、幾つかライブが行われた冬があった。



そのうちの一つ、東京中野サンプラザ公演は、
後にCD・DVDなどにパッケージングされ、記録として残っているが、
私はそのとき、大阪なんばHatch公演に赴いた。


10周年コンサート(The Worst Visualizer)を彷彿とするように、
開演前のロビーやホールの客席へと、メンバーが散り散りに登場し、
各人が携えるアコースティック楽器を手に
思い思いのレパートリーを弾き語りながら、そのまま壇上に集い、
ソロ演奏からバンド演奏へと徐々に纏まり、
「Damn! MOONRIDERS」「鬼火」に繋がっていく……という、
のっけから趣向を凝らした、おもてなし全開のライブだったが。

本編終了後、アンコールでは
中野サンプラザ同様に、なんばHatchにおいても、
「マスカットココナツバナナメロン」ではガールズコーラスが、
「花咲く乙女よ穴を掘れ」で男性コーラスが、ステージに招かれた。
そのとき私も、その中に首尾良く飛び入ることができたものだ。


白井良明ギター番長の掛け声に応じた男性陣が、
無尽にバミられたステージの上、配線を踏まぬように歩き、
上手の隅の方、呼ばれた位置でひとまとめにされて。

同じ視点の高さでメンバーが演奏する、夢のような心地の中、
「花咲く乙女」のコーラスパート「♪家に帰ればパパとママが~」を、
見よう見まねで野太く吠える。

その演奏が終わっても、間髪入れず、
下手に女性陣、上手に男性陣を残したまま、
「Kのトランク」「Beatitude」と、
大合唱パートが添えられた曲を立て続けに演奏。
即席合唱団も、ステージの上で声を上げ、拳を振りあげたっけか。


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忘れがたきひと時も終わり、客席への帰り際に、
メンバーが合唱団ひとりひとりと握手を交わし送り出してくれた一幕。
そのとき、かしぶち哲郎さんの手を触った瞬間に、言葉を失った。
その手のひらは氷のように冷たかった。

夏秋文尚氏とのツインドラムとはいえ
2時間以上に及ぶ激しいプレイを披露した直後だというのに。
歴戦のベテランもステージの上で緊張するのか。
それとも、何十年とビートを刻んだ代償として、
末梢へと血が通わぬ腕となったのか。


はにかみ顔で手を握ってくれたかしぶちさんに
何も言葉が返せなかったのを、凍風の日には思い出す。





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