名古屋・伏見で柳家喬太郎独演会「喬太郎のラクゴ新世界」を見た。
年二回開催、今回で25回目、キャパ約250人、次回前売券が会場先行前売でほぼハケるのが特徴の、
喬太郎名古屋独演会のホームグラウンド的落語会だ。
それだけに演者と観客の共犯関係も成立する密度の濃い会でもある。
開口一番は弟弟子の柳家小太郎。
この会ではお馴染みの準レギュラーでかれこれ5年は開口一番を務めている。
開演前に名古屋では初めての小太郎独演会のチケットを
自ら販売していたが、予想外に苦戦したようで
まずはそのことについてのボヤキ節から。頑張れ小太郎。
ボヤききってから、この季節の噺をということで「蚊いくさ」。
剣術にはまって文無しになった町人が家の中に群がる蚊と一戦交えるという噺。
小太郎さんはこの会での開口一番で、いわゆる定番噺ではないような
なかなか聞けない珍しい噺をたくさんかけてくれるので新鮮。
回を追うごとに成長していく姿も見てこれたので、8月の名古屋独演会が個人的にはとても楽しみ。
続いて喬太郎師匠登場。
「名古屋にはしょっちゅう来てるから枕のネタがもうない」
「お客の顔ぶれもいつも一緒でしょ?」などとぼやきつつ、学校寄席の話題でたっぷり30分。
その話題の中で落語と講談の違いに触れた時、
「名古屋の落語会に遅刻しそうな兄弟子と連絡を受けた弟弟子」と設定を决め、
それを落語・講談・浪花節の手法を用いて即興で演じ分けるという、
余話とは思えぬほどの芸が披露されて拍手喝采。
そこからの一本目は品川心中。前から聞きたいと思ってた噺の一つだが、
喬太郎師匠で聞ける日が来るとは思ってもおらず、ちょっとラッキー。
心中とは銘打たれているけど悲劇でもなくドタバタ喜劇。
師匠お得意の可愛げのある熟女とそれに惚れ込む優柔不断な男の、
心中を企ててるというのに緊迫感のかけらもないやりとりが笑いを誘う。
仲入り後は枕もそこそこに、宿屋の主と女将が登場、
そこに長逗留する絵師が出てきた…とくれば、おなじみの抜け雀。
この噺を聞いたのはいつ以来だっけなあ、と思い起こしながら前半のやりとりを眺めてると、
「宿代の代わりに絵を描いてやるから紙を持って参れ」と命令する絵師に対して、
宿屋の主が出してきたのは裏手に置いてある土管。
その瞬間、観客の半分ほどがドカンと爆笑。
そう、抜け雀ではなくウルトラシリーズ改作落語の抜けガヴァドンだった。
名古屋の喬太郎マニアが集う会だから、喬太郎師匠が特撮マニアで
ウルトラシリーズを題材にした改作落語をいくつも持っていて、
その中に抜け雀を改作した抜けガヴァドンがあるというのは大半の客は知っている。
しかし、それらの噺をするならば、ある程度は枕で関連性のある特撮トークを振るのもまたセオリー。
それに仲入り後の枕が短い時は作品の世界観を大切にするときだから
これは古典の人情物に相違ない…と、布石をいくつも打っておいて、
「土管」の一言ですべてを裏切った確信犯の抜けガヴァドン。
そこからは独走状態の狂太郎ワールド全開で、割れんばかりの大爆笑だった。
上野鈴本演芸場では来月末に「ウルトラ喬タロウ」と題して、
10夜連続で円谷プロ作品をモチーフにした落語をかける喬太郎主任興行が行われる。
地方の喬太郎ファンとしてはとても羨ましいが、
今日の抜けガヴァドンを見ての驚きは普通にウルトラ落語を聞いただけでは味わえない。
喬太郎師匠が枕で触れたとおり、回を重ねて毎回の客の顔ぶれがほとんど変わらなくなった
マニア密度の濃い会場で気づかぬうちに伏線を張られ、
ミステリのように裏をかかれたまま不意を突かれての種明かし。
この会ならではの共犯関係が成り立ってるが故に可能な業だと膝を打った。
また、この試みは今回限りともなろう。これもまたライブ演芸の醍醐味である。
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