うろこ雲のすきまを縫いながら、雁の群れが空を往く。
畦を朱く染めた曼珠沙華の祭りも盛りを過ぎ、
出番待ちの萩が赤紫を野に散りばめた。
節気の変わり目は、いつもあっという間だ。
妻を迎えて実家を出て、借家で新生活を始めたときのこと。
お祝いに訪れた祖母が、庭に生えている萩を見つけ、
「萩は『人につく』というから大切になさい」と教えてくれた。
なるほどそういうものか、と先人の教えに深く感銘を受けたが、
そのあとでひどく苦労した。
なにしろその萩は、庭のど真ん中に居たのだから。
草むしり、物干し、家庭菜園、
なにをするにしても萩は存在感を示して、
秋になると容赦なく実をつける。
服や靴にまんべんなく塗りたくられた種を摘みながら、
野山の至るところで生い茂る萩の秘訣を、
嫌というほど思い知らされた。
我が家の暮らしに庭など要らぬと、二人とも痛く懲りたものだ。
それは今でも家訓として生きている。
そんな余計な教えを残した祖母も、彼岸へと渡って久しい。
あの庭で萩はまだ元気にしてるのだろうか。
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