2016年10月7日金曜日

Moonriders Outro Clubbing Tour in Nagoya E.L.L. 20161006

ムーンライダーズのライブを見るのは4度目、
初めて行ったのは1998年夏の岐阜ライブだった。
そのときの思い出は別ブログにかつて記したとおりだが、
それから見たのが無期限活動休止宣告ライブとかしぶち哲郎追悼ライブなので、
葬式厨と指差されても仕方ない。

結成40周年を記念して「活動休止の休止」を宣言。
7月から年末までフェス参加やライブハウスツアー、
ホールクラスライブを半年に渡って執り行い、
同時に入会金1万円の半年間限定FCも結成する……という、
なかなか刺激的な発表を伝え聞いたのは初夏の頃であろうか。
地元でもライブがあるし、洒落っ気の効いた価格設定だったし、
賞与が出たばかりの懐具合も手伝ってFC加入し、ライブも予約した。
ほどなく発券したチケットの整理番号を確認したら
我が目を疑うような数字で、逆に客入りが心配になったが、
開催前日に急遽、キャパ250人のell.FITS ALLから
キャパ600人のElectric Lady Landへと変更、ソールドアウトした模様。
うひーE.L.L.なんて昔のハコで初期シンセサイザーズを見て以来だよ、などと
思いを巡らせつつ大須へと向かった。

定刻通りに場内暗転し、ほどなくメンバー登場。
上手前方から武川・慶一・良明・博文、後方に岡田・夏秋と、
近年定番の4人フロントに位置取って音出し、からの一曲目は
昨年に患った大病から復帰を遂げた武川がボーカルを取る「水の中のナイフ」。
すでに日程終了しているフェスなどと同様に、
ライブ乗りの良いアッパーな人気曲がずらりと並ぶ中、
随所に「珍しい曲」(慶一談)を挟む、緩急つけたセットリストが繰り広げられる。

信じられないような最前列センターを陣取れたため、
場所が良すぎた分、フロントのモニタースピーカーの音まで聞こえてしまい、
キーボード・ボーカルがギター・ベースに隠れがちだったのは残念。
とても贅沢な悩みではあるが。
その代わり、メンバーの一挙一動を余すところなく見物できて、
BEATITUDEでの慶一と良明のダブルギタリストによる名物足上げステップや
モダーン・ラヴァーズの博文ショーなど円熟のパフォーマンスを堪能した。
ライブ終了後のフロアにはメンバーより若かろう観客がところどころで
嬉しい悲鳴を上げながら疲れ果てている光景が見られた。

円熟と言えば、今日の演奏は心持ちテンポを抑え気味にしてた気がする。
聞き慣れたライブ盤では疾走感ある走り気味の曲も
今日はテンポを堪えて一音一音、匠の技で配置されて
かっちりと構築していくような印象を受けた。ツアー初日だからだろうか。
残念ながら私は今日の名古屋しか行けないが、週末は新宿ロフト2Days、
そのまま来週は大阪香川、翌月に京都金沢とツアーは進み、
師走には中野サンプラザ公演が発表されている。
活動休止の休止という力技を駆使して再び姿を現した噂の怪物は
結成40周年の節目を死に物狂いで駆け抜ける。
その片鱗を名古屋の地で見せつけた一夜だった。
この怪物、見逃すと後悔するぞ。






追記、というほどでもないが、慶一さんの髪型に意表を突かれた。
まさかのリーゼント。

2016年10月4日火曜日

栄華の都 - Movie City

タイトルはちょっと言ってみたかっただけシリーズ。


前に書いたとおり、今年は映画館に向かう機会が多い。
数百人規模の大スクリーンからIMAX、はたまた数十席のミニシアターまで
色んな場所と空間で映画を楽しんできたが、映画内容の感想を抜きにして感じたのは、
デジタル上映の時代になり、映像のクオリティが飛躍的に向上したのを実感した。

少し前まではフィルムについた傷なのか、
映像の端々に一瞬だけ走るノイズのような線や点が気になったものだが、
そういうストレスとは無縁で全編楽しめるようになって良い時代だなーと
とてもおっさん臭い有難みでしみじみとしてしまう。

フィルム時代の映画といえば上映中の映像に
15分か20分間隔で定期的に上の方に穴みたいなのが出てきて
いちど気になり始めると仕方なかったものだが、
あれはフィルムの切り替えタイミングを伝える
「切り替えパンチ」なるものだと知ったときは一つ賢くなった気がしたが、
あれも今の若者たちにはもう完全に縁遠いものなんだろなあ。


思い起こしてみると、不思議惑星キン・ザ・ザの2001年時
リバイバル上映のときはニュープリントが売りだったし、
2011年の映画けいおんぐらいまではぎりぎりフィルム上映だったはず。
ここ数年でデジタル上映に切り替わったんだろうけど、
とにかく映像ベースの向上には目を見張る思いだ。

さらに振り返れば、10年前の夏に見た細田版時かけは
一部で熱狂的に話題になってから劇場に行ったので、
封切りから数週間経ったロングラン上映してるときに見た映像は
けっこう細かいフィルム傷が気になったのを覚えてる。
それに対して、その同年の冬に封切られたパプリカは
上映開始週の早めに見に行ったので、極上に美麗でグロテスクな映像を
とても良い状態で目に焼き付けられて幸せだった。
その二つの出来事を照らし合わせて
「映画は公開週に見に行くべき」と心に刻み、
ついでに当時のmixi日記に書き残したものだったが、
今となっては懐かしい過去のライフハックとなった。
(が、その教訓は形を変えて「展覧会は初週に見に行くべき」となって生きてる)


でも、映画のネタバレ考察トークとか二次創作妄想を膨らませるのを
みんなで寄ってたかってわいわいやるのはメチャクチャ楽しいから、
やっぱり映画は早めに見に行ったほうが面白いよ。



2016年9月29日木曜日

みりんのふるさと

碧南市の藤井達吉現代美術館に河鍋暁斎展を見に行った。
離れた臨時駐車場に車を停め、美術館への道を歩いていると
どこからか米が炊けたときのような、食欲をそそる香りが漂う。
香りの元は美術館前の道路を挟んだ向かい側、
歴史と風格を感じる白壁に掲げられた「九重味淋」の看板。
もち米を蒸すみりんの蔵元からの香りだった。

香りに誘われるままに直売所へ吸い寄せられると、
そこは昔ながらの事務所の一角に設けられた実直な売店、の真ん中に接客係のPepper。
しきりに会話をせがんでくるPepper相手に軽快トークを見せないと
やっぱり売ってくれないのかな、と身構えてたら
ほどなく女性社員が応対に出てきてくれて、心の底から安心する。
看板商品である本みりん九重櫻と原料にみりん粕を用いたラスクを購入した。

実は先日、とある酒屋の前を通ったら
袋詰めのみりん粕が売られてたのを見かけて
そのうち食べるつもりでなんとなく購入したり、
飲用に向くみりんのレビュー同人誌を書店で見かけて衝動買いしたりと
なぜかみりんづいてる。
その本によれば私の住む地方の近隣は
江戸時代からの歴史あるみりんの産地らしくて
今でもみりんの名品を作る蔵元が多いとのこと。
和風料理ぐらいでしか味わう機会がなかったみりんだが
良い機会なのでいろいろ試してみると世界が広がるかも。
下戸だから舐める程度にしか味わえないんだけど。


2016年9月21日水曜日

キクをミル / 映画「聲の形」

映画「聲の形」を見た。
アニメけいおんシリーズ・たまこまーけっと・
たまこラブストーリーを手掛けた山田尚子監督の最新作で、
原作も週刊少年マガジン連載時に話題となった作品である。
映画化のニュースとスタッフ発表以来、封切りを心待ちにしていた。
しかし上映開始と仕事のスケジュールがうまく合わず、
間隙を縫って初日土曜のレイトショーに駆けつけたが、
初見では多数のエピソードを整理しきれずに表面的な感想ばかり生まれる始末。
それと同時に再び見たいという衝動と、
モヤモヤした思いを自分なりに消化したいと直感したので、
日を改めて再鑑賞する機会を伺っていた。
以下、映画本編を見た後の感想置き場につき
未見の方はネタバレ注意。



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2016年9月14日水曜日

名古屋ボストン美術館「俺たちの国芳、わたしの国貞」

名古屋ボストン美術館「俺たちの国芳、わたしの国貞」を観た。
春のbunkamuraザ・ミュージアム、夏の神戸市立博物館を経て、ようやく名古屋へ巡回。
初週の平日とは思えぬほどの入り具合、しかし大混雑とまでは行かず
じっくり見たい作品も少し待てば独り占めできるぐらいで、
ちょうど良い塩梅で楽しんでこれた。


今回の展覧会で目を惹かれたのは
「三代目尾上菊五郎の名古屋山三、六代目岩井半四郎、五代目市川海老蔵の不破伴左衛門」
「二代目岩井粂三郎の揚巻、七代目市川團十郎の助六、三代目尾上菊五郎の新兵衛」だ。

二代目岩井粂三郎の揚巻、七代目市川團十郎の助六、三代目尾上菊五郎の新兵衛


歌舞伎が大好きな毛利の若殿様が国芳や国貞に摺らせた特注品で、
版画とは思えぬほどの繊細な彫り線や、金銀特色も加わった上品な色使い、
さらには「空摺り」と呼ばれるエンボス加工まで施されており、
町人向けに量産された錦絵とは一線を画した技術がつぎ込まれてて、
それはとても見応えあった。

国芳の細部まで緻密に描き込まれた世界観とマンガチックに大胆な構図、
国貞の本流を押さえながらも女性の生活を機微に描いた作品、
それぞれを比較しながらも、どれも見ていて飽きない作品ばかりで
保存状態も良い物が並んでおり、とても楽しいひとときであった。


ところで、当時人気だったのはやはり歌舞伎だったようで
歌舞伎役者のブロマイド的な作品がいくつも並んでおり、
歌舞伎の知識も嗜んでいると浮世絵鑑賞は捗りそうだ、と見ながら感じてた。
例えば市川團十郎や尾上菊五郎といった留め名の大名跡から、
成田屋や音羽屋などの屋号、それぞれの得意とした演目…。
たまたま先日読んだ「歌舞伎一年生」が初心者向けに解説されてて
そこらの知識を一夜漬けできたのが今回とても役立った。
当時の庶民的な風俗や世相をダイレクトに取り込んだ消費アートだから
その手の知識も詳しくなれば、より楽しめる気がする。
そんな点でも勉強になった日だった。

2016年9月10日土曜日

葡萄の季節

ここ数年、夏の味覚の楽しみにぶどうが加わった。

子供の頃はどちらかと言えばそんなにぶどうが好きじゃなかった。
食卓に上がるのはデラウェアか巨峰のどちらかで、
食べやすいけど酸っぱさが先に目立って粒の数が多くて食べ飽きるデラと、
甘い大きいと親が有難がってた巨峰の方は
皮は剥きにくいは種はデカいは面倒だはで、好んで食べた記憶がない。
生活圏にコストコができたころに
輸入品のシードレスグレープを試しに買ったが、
確かに食べやすいけども甘さは薄いし割高感はあるし、
結局、繰り返し買うものにはならなかった。


転機が訪れたのは数年前。妻がある日、
「この近くの町はぶどうの名産地らしい。
 色んな種類のぶどうを育ててるんだって。食べたい。」
…と、つぶやいた。
ぶどうなんて巨峰かデラウェアかマスカットぐらいじゃないの?と
訝しみつつ調べてみたら、自分が知らないだけで、
世の中にはお米のそれ並みの品種が出回っており、
中にはゴルビーってソ連の書記長みたいなやつもいた。
(とか思ってたらホントにそれが由来だった)


そんな会話をしたのが10月ぐらい。
そのときは知らなかったがこの辺りのぶどうの旬は8月。
ということでその年はお預け。
翌年の夏がやってきた頃、満を持して美味しいぶどうを探し始めた。

やはり売れ筋なのか主流なのか、巨峰をメインに育ててるぶどう園が多く、
でもどうせならなるべく多種多様な品種を中心にやってるところに行きたいな、
だけどそんな都合の良いところあるのかな、と思いながら農道を車で走ってたら、
「ピオーネ」「ゴルビー」などと書かれたのぼりを発見。
誘われるがままに行ったら、栽培品種が十数種類、
さらに看板犬のワイマラナーとトイプードルが激烈可愛いという、
我々にとってのエルドラドのようなぶどう園に巡りあった。

よく冷えた試食用のぶどうは甘く美味しく、
種のないもの、皮ごと食べられるもの、などなど多種多様で、
いくつかの品種を見繕って買ったが、
どれもこれも眼から鱗が落ちる勢いで大変美味しかった。
特に我が家で人気が高かったのはシャインマスカットで
甘い・香りが良い・実がしっかりしてる・粒が大きい・皮ごと食べられる、と
「ぶどうってこんなに美味かったのか…」と思い知らされた。
これはリピートせねばなるまい、と改めて買いに行ったら、
シャインマスカットは比較的、早生の品種のようで既に取り扱い終了、
また翌年まで持ち越しで肩を落としつつ他の品種を買って帰ったこともあった。


結局、その年の夏は事あるごとに通い、様々な品種を食べ比べた。
いろいろな種類を食べることで食べ慣れた巨峰の美味しさを改めて認識したり、
流通ルートを経てスーパーに並ぶものより朝採れ新鮮な方が明らかに甘いこと、
食べ比べて自分たちの好みの食感や味の指標ができたのは貴重な経験だった。

旬が過ぎ去った秋冬頃からは翌年のためのぶどう貯金まで始める始末。
そして今年もその貯金を使い、ぶどうをたくさん食べられた。
シーズン初っ端に当たった大粒のシャインマスカットがマストだったなあ。


今年の旬も終わってしまったけど、また来年が楽しみ。お金貯めよう。

2016年9月7日水曜日

夏の映画の雑感

今年は映画館に足を運ぶ機会が多い夏だった。


7月末の公開直後からただならぬ勢いでTwitterで話題に上がった「シン・ゴジラ」。
ネット依存症気味である我が家でも話題になり、
見に行くしかあるまいと近所のシネコンへと向かってIMAXで鑑賞、
見終わった直後に家計からの支出でサントラ購入するほど衝撃を受けた。
その後ほどなく「社会現象」と呼ぶのにふさわしいブームとなり、
一時の喧騒からはようやく落ち着いてきたものの、
その名を目にしない日はいまだに無い。

特撮映画としても政治劇としても邦画としても、
なにより娯楽映画として心底楽しめた映画だった。
鳥肌が立つような映画をスクリーンで見れて良かった。


シン・ゴジラの爆発的ブームが一段落した頃に
入れ違いでTLに登りはじめた「君の名は。」。
タイトルが繰り返し流れてくるようになってから気になり始めたものの、
この映画の事前情報どころか、新海誠監督作品すらも一度も見たことはない。
幾つかの評判に主題歌を歌うバンドとキャストを当てている俳優の話題、
それと景気の良い興行収入のニュースが届くばかりだった。

逆にここまで来たなら、どんな内容なのかなにも知らぬまま見ようかの、と
気負ったまま乗り込んだ映画館。
そこは噂どおりリア充とおよそアニメを見に来ないような若者、
それと熟年夫婦で9割方埋まっていた。平日の真昼間なのに。

いろいろ気になるところや細かく突っ込みたいところも目立つが、
綺麗にまとまった佳作だった。
誰かがどこかで「シン・ゴジラは一刻も早く観にいくべき作品だが、
君の名は。は若いうちに観に行かなければならない作品」と言ってたが
その言葉がすんなり飲み込めるような、青春現代ファンタジーだ。
突っ込みたいところや感想が溢れでてきて
ネタバレ覚悟で誰かと熱く語りたくて仕方ないけど、
そんな野暮よりも話が動き出してからの展開に身を任せて
素直に楽しむのが最善手かもしれない。

しかし、この作品がスマッシュヒットするならば、
細田時かけやたまこラブストーリーももっと高く評価されても、とも思うが、
先達が築いた数々の青春アニメ作品を経て、また数年前と比べても
アニメ・オタク文化が根強く浸透した時代になったからこそ、
ようやく世間とハイパーリンクして花開いたのが「君の名は。」なのかも、と
考えると、それはそれでちょっとようやく気は熟したかと感慨深い。

先日、テレビ録画サーバーのHDDを整理してたら
数年前の正月に放送した新海誠監督作品一挙放送の録画が出てきた。
いつか見ようと思ったまますっかり忘れてたけど、これもそろそろ見頃かな。


この夏が来る前から最も期待してた映画は
ゴジラでも君の名はでもなく、「不思議惑星キン・ザ・ザ」のリバイバル上映だった。

平沢進リスナーなら一度は耳にする旧ソ連グルジア発のSF映画。
日本では昭和の末期にVHSで流通、アンダーグラウンドなカルト人気を得て、
その人気に押されたのか、21世紀を迎えた頃に
ニュープリント・新訳字幕でミニシアター上映とDVDリリース。
…されたまでは良かったが、ほどなくDVDも廃盤。
再び知る人ぞ知るカルト映画になってしまった。
一時期はAmazonのマケプレでもDVDが数万円とか値段がついてたっけ。

それが今年、デジタル・リマスター版が再びミニシアター上映されることとなり
私が暮らす地方にもやってくるというニュースが飛び込んできた。
封切日に行きたかったが仕事スケジュールとうまく噛み合わず、
上映終了間近の平日になってようやく見に行けた。

DVDも持ってはいるが、手元にあるとなかなか見返さないもので
通してみたのは10年ぶりかもっと前かもしれない。
大まかなあらすじは覚えていても中盤以降のエピソードはかなり忘れていた。
前に見た時は全体的に冗長なイメージだったが、
久しぶりにちゃんと見て、覚えてたよりも起伏ある筋書きで
旧ソ連体制の寓意的描写をさておいても
ディストピアSFとしてしっかりと面白い作品だった、と感じたのは収穫だった。
あらかじめあらすじが頭に入ってたから、訳の分からない情報が整理されて
昔に比べて見やすかったというのも、あるかもしれない。

パンフレットの解説が2001年版からの転載ばかりなのがやや残念。
もうちょっと気合を入れて作って欲しかった。



この後も気になる映画がいくつかある。
なんといっても見逃せないのが「聲の形」。
待ちに待ってた山田尚子監督の最新作。
たまこラブストーリーを見た時のショックは忘れられない。
話題になると良いなあ。

もうひとつ。映画館のチラシで初めて知った「築地ワンダーランド」。
閉場目前の築地市場をテーマにしたドキュメンタリー映画とのことで、
予告編からして美味しそう。これは見に行ければ行きたい。
映画の他にも見に行きたい特別展の開催がいくつも待ってるし、
見逃せないライブも迫ってて、この秋も忙しくなりそう。




2016年7月13日水曜日

テーマパーク京都

日帰りぐらいの遊び先に「京都」という選択肢が増えたのはここ数年のことだろうか。
中京圏で思春期を過ごした者のご多分に漏れず、
遠出の遊び場といえば花の都東京方面にしか目が向かなかったが、
それまで修学旅行でしか行ったことがなかった京都に
ご縁ができたのは10年ぐらい前のこと。
妻がお世話になっている大阪能勢の自転車屋に
我が家から車で行くときは京都市内を横断するのが
当時は一番の近道だったからだ。


せっかく京都を通り過ぎるならどこかに寄って遊んでいきたい、
しかし当時は日本史にもあまり興味がなく、
京都の街なかの知識もさほど蓄えてなかったので
いわゆる観光地を足早に二、三ヶ所ほど見て目的地へと急ぐことが多かった。

そのうちに安くて美味しい京都グルメの存在に気づく。
豆腐屋が経営するお茶屋の千円以下で食べられる湯豆腐や、
地元の人が普段遣いしてるおまんじゅう屋の和菓子に
茶房で提供されるお抹茶とお菓子、
実は銘店が多いパン屋やB級グルメなどなど、
行列もできるが確かに美味しい店が粒ぞろいだった。


食事に釣られて街なかをてくてく徒歩で動き出すと、色んな物が見えてくる。
駐車場から目的地までの道脇にある小さなお寺に
私でも知ってるような重要文化財の仏像があったり、
なんの気なしに歩いてた路地の角が歴史的史跡だったりと、
なにしろ千二百年の歴史ある古都で
ここ数百年は戦火にも焼かれてないから
地層の積もり方が半端ない。
ガイドブック片手に調べ始めた時にはすっかり京都にはまってた。


ここ数年は博物館や美術館で催される展覧会にも興味が湧いている。
きっかけは京都国立博物館での鳥獣戯画全幅公開を見たことで、
それまで日本美術にはほとんど興味なかったが
他の様々な日本画を見ていくうちに、
浮世絵も鳥獣戯画も狩野派も絵巻物も琳派も禅画も
それまで「日本画」の括りで一緒くたにしか見てなかったものを、
日本美術体系のなかでどのように変貌を遂げていったのか、
本流の日本美術とはどのような作品を指して
それら本流に対するアンチテーゼとしてどんなものが作られたのかを
一から学んで作品を見ていくのは、知的興奮を刺激されて楽しい趣味となった。


美味しいグルメ、至る所にちらばる名所旧跡、
年がら年中みどころに事欠かさない街。
こんなイベントだらけのスポットを
いつかどこかで経験したっけなーと思い起こしてたら
万博の雰囲気に似てるような気がしてきた。
乱暴な物言いをすれば街全体がテーマパークみたいなところである。

自分たちみたいに安く遊ぼうとしてもそれなりに楽しめる。
ちょっと背伸びすれば桁が違うような格式ある料亭でも
体験版みたいな朝食コースを味あわせてくれる。
いかなるステータスがあっても一見さんはお断りの世界もあるという、
多層レイヤーな社会も透け見えて奥深い。
それこそ千年もの間、天上人から町人まで生き続けてきた
歴史ある階級社会が今でも街中にどっしり根付いている感覚がある。

住むとなると大変そうだが遊ぶ程度なら遊びきれないくらい遊びどころがある。
世界中から観光客がやってくる街の魅力がなんとなく分かってきた。
こんな観光都市に車で片道2時間程度で行けるのは有難い。
まだまだ到底回りきれてないので気長に遊ばせていただこう。







2016年7月6日水曜日

中野テルヲ 20th Anniversary [Live160609]

東京公演も終わったのでひと月前のライブ感想を。


ソロライブワンマンを見るのは14年ぶり。
その間にイベント出演ライブを何度か見たけども、
やはりワンマンでの異色なステージ機材構成は眼を見張るものがある。

今回、目についたのは向かって左側に設置されたダミーヘッド。
ステージの現場でバイノーラル録音したところで出音には効果ないだろうし、
はてどのように使うのやら、と訝しんでたら、
その直下に備え付けられたテープレコーダーとセットになってて、
直接ループテープサンプリングが始まった。
ダミーヘッドの耳元にあるマイクに耳打ちするかのごときポーズで。
…若い子のファンが大勢を占めるようになったから出来る技だなぁ…。


そんなパフォーマンスも含めて、総合的に感じたのは
アーティストとしての若返りを目的としたブラッシュアップが効いていた。
かつての中野テルヲライブといえば、一言で言えばストイックな、
まるで客席とステージの間に薄い透明壁でもあるかの如く、
隔てられた孤室でおこなわれる音楽実験を目の当たりにしてるような印象だった。
これは2000年代の長きに渡る活動休止から復帰した直後のライブでも
程度の差はあれども受けた感想だ。
それが中野テルヲのパブリックイメージの一端でもあった気がする。

ところが、それから数年を経て久しぶりに見たライブは
観客からの反応をアグレッシブに受け止めてさらなるパフォーマンスに繋げる、
電子音楽を主体としたベテランアーティストらしからぬ
異形のコール&レスポンスが成立するステージングに変容していた。


長年の盟友や自分のキャリアより若いアーティストとの共演に加え、
おそらく制作スタンスとマッチした所属事務所と
スタッフのバックアップ体制も大きいだろうし、
そしてなにより、現在の客層を支える若いリスナー達からも影響を受けているのだろう、
間違いなく我々が追っかけてたころの中野テルヲよりも
現在のほうが若々しい表現スタイルになっている。
そしてそれはとても官能的で魅力あるステージだ。


今回のライブには久しぶりに妻を誘った。
20年前の彼女は、私よりも熱心に中野テルヲを追っかけてて、
P-MODELと中野テルヲが同じ渋谷で同日同時間帯にライブを催した
伝説のダブルブッキングではテルヲを選んだほどのヘビーリスナーだったが、
ここ数年はテルヲライブからは遠ざかっていた。
そんな妻にこそ今の中野テルヲを見てもらいたかったのだ。
終演後には珍しく興奮気味に感想を語り、
「誘ってくれてありがと」と言ったときの表情は
とても楽しそうだった。

プロミュージシャン歴30年、ソロ活動スタートからも20年を過ぎて
活動を総括するどころではなく、ますますスケールアップする中野テルヲ。
この先に拡がる創作活動にも期待。


中野テルヲオフィシャルサイト発表より転載)

Uhlandstr On-Line
IDは異邦人
Amp-Amplified
Raindrops Keep Fallin' On My Desktop
Pilot Run #4
ファインダー
フレーム・バッファ I
Mission Goes West
スパイ大作戦
Ticktack
今夜はブギー・バック
宇宙船
Run Radio III
Dreaming
虹をみた
ディープ・アーキテクチャ
Let's Go Skysensor

EN1. グライダー
EN2. Yesは答えをいそがないで
EN3. フレーム・バッファ II



ライブグッズ:20周年記念Tシャツ。
展示品を販売してくださって感謝。


2016年7月5日火曜日

生き物と個性

我が家では30kgのズタ袋に入ったウッドチップを常備しててる。
そんなものは競走馬の調教用ぐらいしか縁のなかった単語だが、
数年前から家に置かれるようになった。
元々は燃料用のペレットとしての製品らしいが、
これが猫トイレの砂代わりとして有用なのだ。

ウッドチップの上で猫が用を足すとチップが水気を吸って分解する。
匂いは木材の香りが強くてほとんど気にならない。
システムタイプの猫トイレなので分解した粉は下に敷いてるシートに落ちる。
我が家の場合は週2~3回の交換で済むし、猫も嫌がることなく使ってる。


現在は5匹の猫と暮らしてるが、年長である10歳オーバーの2匹は
猫砂を決して使うことなく、幼少から親しんだペットシーツを愛用しており、
若者組3匹がウッドチップと固まる猫砂トイレを使ってる。
逆にそいつらがペットシーツを使ってるのを見たことがない。
よくよく観察すると猫もなかなか頑固だ。

12歳になるボス格の黒猫がドライフードを食べる時は、
そそぐときにカラカラとクリスピーな音を立てるエサ箱でしか食べないし、
去年仲間入りした白猫は、腎臓が弱い最年長サビ猫専用の療養食が大好きで
自分の分を早々に食べ終わった後は、わざわざサビ猫のところまで行き、
奪いとってまでも他人の療養食をむさぼり食ってる。


実家に暮らしていた頃も犬や猫を飼っていたが
一頭飼いだったので犬や猫に個性があるとは考えることもなかった。
しかし猫を多頭飼いし始めてからは、それぞれの個性の強さに
面食らいながらも、それが大きな魅力だと知らされた。
一時期飼っていたランチュウも意外と個性があって
魚類あなどりがたしと唸らされた。


小さい頃からカエルが大好きで、図鑑を見てはモリアオガエルや
シュレーゲルアオガエル、カジカガエルをいつか飼いたいと願っていた。
だが、子どもの時分にそこらへんのカエルを捕まえては、
生半可な知識で飼おうとして結構な命を無駄にしてしまったので、
それを反省して両生類には手を出さないように自重している。

自然のままの姿が一番可愛いと納得して所有欲を絶っているが、
あいつらも飼ってみたら個性があるのだろうか。
ちょっとだけ気になる。